カンダチメ史學手習

kandachime11の日本史関係のブログ。博物館などいろいろ。

【レポート】特別展「仁和寺と御室派のみほとけ―天平と真言密教の名宝ー」

ninnaji2018.com

 

仁和寺と言えば、「阿」の字で4万もの死者を弔う僧侶や、石清水八幡宮の参拝に失敗したり、鼎が頭から抜けなくなって大変なことになったりする僧侶など、随筆にもやたら登場する名刹である。

 

 もっと「空海色」を出して良いのでは?

仁和寺と言えば真言宗真言宗と言えば空海。そういうわけで、この展覧会でも空海ゆかりの名宝が多い。

例えば仁和寺蔵の三十帖冊子は空海直筆の国宝で、その気になればこの展示物を軸に展覧会をできるぐらいの目玉なのだが、(実際の数は別として印象として)空海にまつわる展示が多いので、もっとそれを推しても良かったような気がする。

そもそも仁和寺真言宗空海という構図が即座に浮かばないような人は対象にしていないということかもしれないが……。

 

親より憎い展示替え

ちょっと残念だと思った点は、展示替えが多いということ。一応私も学芸員有資格者ではあるので、展示替えの必要性は理解しているつもりなのだが、見どころのひとつに挙げられている葛井寺千手観音菩薩坐像が展示替えの対象(2月14日~)だったというのは、ひとえに私の下調べ不足というのもあるが、ちょっと残念だった。

 

観音堂は絶対に観なくてはいけない(音声ガイド付きで)

とまあ、ここまで不満ばかり書き連ねてしまったが、はっきり言ってこの展覧会は行くべきと言い切れる。

秘仏が多いというのも理由だが、とにかく第四室の観音堂の展示を観るべきだからである。たとえ他の展示すべてを素通りしてしまったとしても、この展示のためだけに入館料を払ってもいいぐらいの、とにかく素晴らしい展示である。

これは、普段は非公開の観音堂を、壁画の高彩度画像と33体の安置仏で再現したものなのだが、ただ33体の仏像を(悪い意味で"博物館らしく")ただ陳列するのとは大違いである。運慶展の記事で書いた通り、私には「仏像にとって最も良い展示環境は寺院内であり、寺院という文脈の中にあって初めて仏像は仏像としての真価を示すという持論」があるのだが、これを最高の形で再現できている。

 

そして、もっとおすすめなのは、それを音声ガイド付きで観ることである。ボーナストラックに理趣経読経の音声があり、おそらく順番に音声ガイドを使っていると、このあたりでこのボーナストラックに誘導されているはずなのだが、視覚・聴覚と相まって、もう完璧に観音堂に没入できる。

さらに、この観音堂は写真撮影が許可されたエリアなので、雰囲気をお持ち帰りすることもできる。だが、ぜひこれは本物を観て、聴いて欲しい。

 

ミュージアムグラスと曼荼羅

前回ミュージアムグラスがほしいとか言っていたのだが、実は買ってしまったので、今回はこれを持参していった。

結論から言えば色々な発見があり、良い買い物をしたと思ったのだが、特にミュージアムグラスがあるかないかで全く印象が変わったのは、子島曼荼羅の展示である。これは紺綾地金銀泥絵で、サイズはおよそ350cm×300cm*1ととんでもなく大きいものの、実際には緻密な描写の曼陀羅である。これを肉眼で見ると「黒字に銀のきらきら」ぐらいにしか見えないが、ミュージアムグラスを使うと、緻密な線の一本一本まで楽しめる。

 

 

仁和寺に初めて訪れたのは大学時代のある夏休みだった。

仏教とも日本史とも縁遠い友人と連れ立って行ったのだが、他にも様々な観光名所を巡ったというのに、京都を初めて訪れたという彼が選んだのは、荘厳な金閣寺でも、千本鳥居の伏見稲荷でも、夜の京都タワーでもなく、当時工事中だった仁和寺だった。そして私もまた、迷子になった挙句通りがかりのお坊さんに助けてもらったということもあって、仁和寺が強く印象に残った。

この展覧会をきっかけに、もっと多くの人が仁和寺に関心を持ってくれたら良いと思う。

 

そしてあなたは、観音堂の展示を観るべきである。

*1:厳密には胎蔵界金剛界で微妙にサイズが違う。詳しくは当展覧会図録p.270を参照されたい。